大好きなピアニスト、クリスチャン・ツィメルマン。
レコーディングしたアルバムはどれもクオリティが高いのですが、その中でも個人的に特にお薦めの1枚にショパン/バラード集があります。
以前にこのブログでレコードを手に入れた事を書きましたが、中々聴く機会が無くて、今日ようやくちゃんと聴く事が出来ました。
プログラムはオールショパンで、バラード全4曲にバルカローレ、ファンタジーと言うそれはそれはご機嫌なアルバムです。昨年の来日公演でのバルカローレのこの世の物とは思えない美しさは、未だに耳に焼きついています。
CDは以前から何度も聴いていましたので、レコーディング時の実際の演奏のおおよその想像は付いていたつもりでした。CDではピアノの音色もニュアンスも実演の半分以下しか伝わりません。殆んど別な演奏になってしまう事もしばしばです。録音にうるさいツィメルマンにしても然りです。アナログなら100%OKかと言う訳ではありませんが、CDよりは遥かに伝わります。
で、CDと同じ録音のレコードです。1987年7月の録音。ツィメルマン31歳です。
しかしはっきり言ってCDとは別な演奏です。スケール感がまるで違う!レコードの演奏を聴いてしまうと、CDの演奏がすごく縮こまって聴こえます。
それに何と言うニュアンスの細かさ。極限のピアニッシモ。ダイナミックレンジ。
ツィメルマンの息遣いが手に取るように伝わって来ます。姿勢や指先が見えるようです。
極々僅かなタッチのニュアンスの違いがハッキリと分かります。
ピアノの音色もCDと全然違う。CDではffの時に盛大に割れていた高音も、全然そんな事は無く綺麗に鳴っていました。調律もユニゾンや音色の作り方がハッキリと録音されています。倍音の構成まで違って聴こえる程です。
こうなるとCDとレコードでは違う演奏として聴かなくてはならないのかもしれません。
今まで何回もCDとレコードの音の違いは聴いてきたつもりですが、これ程差があった経験はそうはありません。個人的な考えですが、勿論レコーディング技術の問題も大きいでしょうが、本当にクオリティの高い演奏はCDに入り切れない要素が多いのではないかと思うんです。例えば全盛期のムラヴィンスキー(旧ソ連の歴史に残る大指揮者)の演奏もレコードでさえ絶対に入り切らない演奏と言われていましたもんね。それ程実演と録音に差があったと言う事です。
本物の演奏は、何回聴いても発見があります。10回でも20回でも聴く度に新しい発見があるんです。飽きると言う事がありません。
このツィメルマンのアルバムも間違いなく本物です。
この先、100回目に聴いた時でも100回目の新たな発見、気づきがある事でしょう。