2011年2月16日水曜日

ショパンコンクールのプレッシャー

去年のショパンコンクール。
結果や審査方法については色々と思うところもありますが、その件に関しては触れずに今回はピアノに関してです。

公式ピアノとして、今までの3つのメーカーに一社プラスして4つのメーカーが選ばれました。
スタインウェイ、ヤマハ、カワイそれに新たにファツィオリと言うまだ新しいイタリアのピアノメーカーです。
このファツィオリと言うピアノ、通常のフルコンサートよりかなりデカイ特殊な器種を持っています。
普通のコンサートグランドは奥行き275㎝が基本です。ベヒシュタインは280㎝ですが、5㎝の違いですから大差はありません。
それより大きいのはウィーンのベーゼンドルファーのインペリアルと言う器種で290㎝あります。ベーゼンにも普通のフルコン、275㎝もあります。ベーゼンと言えば鍵盤の数が多いので知られています。
セミコンの225、フルコンの275、この2器種は92鍵あります。普通は88鍵ですよね。最低音がA(ラ)になりますがベーゼンの92鍵はF(ファ)まであります。
ちなみに高音はC(ド)までで一緒です。
インペリアルはこれが97鍵、C(ド)まであるんですね。まあ、普通は使わないんですが・・
では、何でそんなに下の音まであるんでしょう?

むかしむかしあるところにブゾーニと言う作曲家がおったそうじゃ。このおっさん、たいそうなピアノ弾きじゃった。むかしむかしのもっとむかし、バッハと言うえら~い作曲家がおってのぉ、このバッハさんのころにはピアノという楽器はまだなかったんじゃ。パイプオルガンと言うそれはそれはバカでかい楽器があってのぉ、その楽器で演奏するための曲もたくさん書いたんじゃ。
それでな、ブゾーニさん、バッハさんの曲を編曲してピアノで弾こうと考えたんじゃな。ようするに自分で弾きたかったんじゃなかろうかの~。しかしここで問題発生じゃ!パイプオルガンっちゅう楽器はピアノよりもっと低い音がだせるんじゃな。バッハさんもこの低い音をしっかり使っとる。ピアノで弾こうとしても鍵盤が足りんのじゃ!普通だったらあきらめるところじゃが、ブゾーニさんはもっと低い音の出せるピアノを作ってもらおうと考えたんじゃな。なんちゅうワガママなヤツじゃ。ところが捨てる神あれば拾う神ありじゃな、ベーゼンドルファーと言うピアノ屋さんが「よっしゃ、いっちょう作ってあげまひょか」と言ってくれたんじゃ。ってなことで今でも鍵盤の多いピアノを作りつづけてるわけじゃな。めでたしめでたし。

特殊なピアノと言えばベーゼンのインペの事だったのはファツィオリが出て来るまでの話です。
ファツィオリは308㎝!めちゃデカイ!ペダルも4本あるし屋根は3分割できるし訳分からん。
ペダルの機構とかについては、説明すると長~~~くなるのでまたの機会に・・
流石にコンクールでは不公平だからか、普通のフルコンを使っていましたけどね。


コンクールと言うのは、実はメーカーにとってもコンクールなんです。
特に優勝者がどこのメーカーを弾いたかって事ですね。
今回の優勝者のユリアンナさんはヤマハを弾いていましたから、ヤマハにとっては大変な宣伝効果があります。
以前チャイコフスキーコンクールで上原彩子さんが優勝した時もヤマハを弾いたんですが、彼女の場合ヤマハ音楽教室出身ですから尚更です。その後1年以上も広告に優勝した時の写真を使っていましたもんね。
今回は日本人ではありませんが、チャイコより知名度の高いショパンですからヤマハ関係者のみなさんは、さぞやお喜びでしょう。

いつも言っている事ですが、どんなにピアノが良くても調律が悪ければ絶対に良い音はしません。
今回のショパコンでも各メーカーの調律師は、相当な責任を負っているんですね。
ヤマハ、カワイは当然としてもファツィオリの調律師も日本人だったんですよ。
スタインウェイの調律師。若手で期待されている将来有望株の人だったんですが、1次予選の途中で倒れてしまったそうです。
ショパコンって午前中から夜遅くまで、連日続きますよね。つまり調律するのは終わってから翌日の開場までの間って事なんです。しかも4台です。各メーカー持ち時間は決まっていますから、その割り当てられた時間に調律しなくてはいけないんです。夜中だったり明け方だったり・・・
しかもメーカーを背負っての仕事。最高の状態のピアノを選んで会場に運び入れても、そこからは担当調律師にすべて任せるしかありません。ピアノのコンディションは全て調律師の責任です。自分のメーカーを選んでくれたピアニストの信頼もありますから、そのプレッシャーたるや想像を絶するくらいでしょうね。
そんな中でスタインウェイの調律師、体調も悪かったのかもしれませんが、倒れてしまいました。
最高の舞台での仕事を降りなければならないのはどんなに悔しかったか、気持ちは痛い程分かります。

緊急事態に急遽呼ばれたのが、ハンブルクスタインウェイのトップコンサートチューナーのジョルジュ・アンマン氏。ツィメルマンや内田光子などを担当する最高の調律師の一人です。
昔、コンクールでのあまりの緊張で演奏中に気を失ったピアニストもいましたが、特殊な状況で良い仕事をするのはホントに大変な事ですからね。
自分も初めてホールで演奏会の仕事をした時は、手が震えるほど緊張した記憶があります。
今でも緊張はしますが、良い意味での緊張感は必要です。
演奏する方も、あまりリラックスしてると良い演奏は出来ない事が多いようですしね。