2011年9月18日日曜日

矢野顕子さん~レコーディング~

先日、矢野顕子さんのレコーディングがありました。
小田急線の某駅近くのスタジオ。
有名なスタジオですが、ここにはちょっと面白いピアノがあります。
ま、それが売りでもあるんでしょうけどね。

2台あるのですが、そのうちの1台はベーゼンドルファーのモデル290インペリアルです。
鍵盤が97鍵あるフルコンサートよりデカイピアノです。
奥行き290㎝。普通のフルコンサートは275㎝です。
15㎝って言うと少しの差だと思いますが、ピアノで15㎝の違いはかなり大きな差になります。
見た眼も全然違って来ますからね。
以前のこのスタジオでジャズピアニストの島健さんと矢野さんのコラボのレコーディングの時には、矢野さんはこのベーゼンを弾かれました。
島健さんが「どっちでも好きな方を弾いて下さい」って言ったんですね。
矢野さんは「う~ん、私こっちにする~」ってベーゼンを選びました。

今回もベーゼンかなと思いきや、スタインウェイを弾くとの連絡が!
ここのスタインウェイ、普通にあるハンブルクのスタインウェイではありません。
まだまだ日本では珍しいニューヨークスタインウェイです。
ただし、アクション(中の鍵盤から弦を叩くまでのメカニック)はハンブルク製に換えてあります。
ニューヨークのアクションはかなり癖があるので、弾きなれていないと、まずコントロール出来ません。初めて弾いて何とか出来る程ヤワな相手ではないんです。
しかし本体のボディはしっかりニューヨークです。

調律に入って、まず音を出してみると・・・あれ? ニューヨークの音がしない・・・
かと言ってハンブルクの音って感じでもありません。
以前にも書いた事がありますが、スタインウェイを始めとする海外のピアノには、良くも悪くもはっきりとした個性があります。
そこをきちんと理解して、そう言う調律をしないとその個性を発揮出来ません。
しかもこのスタジオは数少ないニューヨーク製です。
ハンブルクに比べても更に個性の強いピアノです。
ハンブルクスタインウェイをやり慣れた調律師でも、ニューヨークは敬遠する人が多いんです。

調律そのものはしっかりとやっているようです。
技術的には問題無いのでしょうが、ニューヨークスタインウェイの発音を理解していないだけなのでしょう。
めったに無いピアノなので、当然なのかもしれません。
しっかりと調律し直せば、ちゃんとニューヨークの音色に戻せます。

この日は矢野さんのピアノ&ヴォーカルにタブラン(ダブラン?)のコラボ。
コンガと鼓の合いの子のような感じの打楽器です。
年末発売の「yanokami」のアルバムの1曲だそうです。
矢野さん、調子が良かったんでしょうか?
3テイク目でOKが出ました。
タブラン奏者の方(すみませ~ん、お名前が・・・・皆さん、アルバムを買って確認して下さいね!)は早々に終了です。
矢野顕子さん、ふわぁ~としたイメージを持っている方が多いかもしれませんが、実はかなり芯は強いんですよ(って感じてます)。
ピアノにもかなり厳しいです!
調律が終わってからのチェックも相当なもんです!
クラシックのピアニストでもそうですが、楽器にウルサイって言う事は、裏を返せば演奏に厳しいと言う事です。ピアノの状態云々で、演奏が変わってしまうのですから、自分の演奏に責任を持つからには、ピアノのコンデションに気を使うのは当然です。
そう言う意味で、本当のプロフェッショナルだと言う事です。

以前、銀座の某スタジオでの出来事です。
調律が終わって、チェック中に「う~ん、この音が気になるのよねぇ~」
「え?そうですか?」
「うん、生音だと問題ないんだけど、ヘッドフォンすると気になるの」
はぁ~~????

レコーディングは当然マイクを通した音を録音します。
そのマイクからの音がヘッドフォンから聞こえてくるんです。
「すみません、ヘッドフォンをお借りして良いですか?」
「良いわよ、宜しくね」

ヘッドフォンを掛けて音色の調整をしたのは初めての経験です。
そこまで言うか・・・
矢野顕子、恐るべし・・・・・